日本画の描き方・2

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「胡粉の作り方」〜「岩絵の具の使い方」まで


胡粉の作り方

胡粉はフレーク状になったものとチューブに入ったものが売られています。チューブのものはもう出来上がったものですので、そのまま溶いて使えます。フレーク状のものは乳鉢で砕いてよく擦り、完全に粉状にします。そこに膠(にかわ)をスプーンで1滴加えてはよく混ぜ合わせ、軽く纏まるていどにします。この膠の分量はかなり慎重に判断しなければいけません。胡粉(絵の具としての)の出来に関わって来るからです。全ての作業は乳鉢の中で行います。絵の具としても乳鉢のままで使います。

少しボソボソしたていどに纏まって来たら指でよくこね合わせます。そこで一つの固まりが出来なければ微量のにかわを加えて下さい。少しでも多いとドロっとして纏まらなくなります。固まりになったら乳鉢の中に叩きつける様に投げ入れて下さい。よく百叩きと言いますが、固まりを見てツヤがあり光っていたら成功です。乳鉢のへりに押し付け、指につけた水で少し均します。これで胡粉の出来上がりです。

胡粉の使い方

胡粉は人物や動物など、何を描くかによって使い方が随分違って来ると思います。中でも特徴的な使い方をするのが「舞妓さん」でしょう。舞妓さんの描き方については後ほど項目を設けて詳しく述べたいと思います。尚前ページ「色紙の作品例」の項でも少し解説してありますので、参考にしてみて下さい。
 
胡粉の2つの大きな特徴として、「乾くと白色が浮き上がってくる」塗り重ねて盛り上げる事が出来るというのがあります。チューブの胡粉絵の具ではこの特徴は見る事は出来ません。練って作った胡粉特有のものです。顔彩の白でも同じ事です。
 
胡粉を塗った上に他の色を重ねても、胡粉の白は浮き上がって来ます。その位効果は抜群なのですが、反面はみ出した箇所も浮き上がって見える訳で、とても目立ってしまいます。なのではみ出してしまったら乾かない内にティッシュで抑えてから筆で丁寧に消してしまいましょう。乾いてしまうと固まった状態になり、綺麗に取るのはかなり困難です。

胡粉は目的に応じて濃度を変えて使う事が出来ます。普通はさらっとした濃度で白絵の具として用いますが、例えば真珠のネックレスや鳥の羽根の芯の部分、かんざしなど、立体的に描いた方が良いものがありますね。そういう時は少し濃度を濃くして細かい番手の方解末を加えて練ったものを用います。これで何度か重ね塗りをすると盛り上がり、立体的になります。一度にボテっと置く様に塗ると後で割れてしまいますので注意して下さい。又、あまり厚く塗ったり、膠の濃度によっても割れが生じます。

胡粉は非常に剥がれやすい絵の具でもあります。「粉を膠で固めてる」と言う意識でお使い下さい。又、薄い濃度で使っていても、同じ箇所に溜まってしまうとそこだけ白が濃くなり盛り上がってしまいます。特に塗り始めの位置を常に一緒にしているとそこに溜まってしまいます。塗り重ねる度に違う箇所から塗るようにして下さい。

水干絵の具の使い方

水干絵の具には、フレーク状(瓶入り)のものと、チューブに入ったものがありますがフレーク状の方が使いやすいです。勿論チューブは水で溶く手軽さはありますが、色の調合や保存性、経済性を考えるとやはりフレーク状の方が勝っています。

本などには「乳鉢でよく擦って粉状にする」と書いてありますが、水干絵の具は少量で非常に大量の絵の具が出来てしまいます。なので、乳鉢で作ると多すぎます。小皿にほんの2〜3カケ出して水を加え、指で潰す様に溶けばよいです。

ダマが残らない様によく溶かしたら、膠を少量加えます。水の量におおじて膠の量も調節しましょう。絵の具を重ね塗りして、前に塗った箇所が剥げ落ちたら膠が少ないです。伸びが悪ければ膠が多すぎです。これは岩絵の具の時でも一緒です。塗りにくいのは「水」と「膠」の割合が上手くいってない事が原因の事が多いです。少量ずつ水、又は膠を加えて使い勝手の良い割合を覚えて下さい。

水干はとても発色の良い絵の具です。なので、薄めに作ることが失敗しないコツです。色が濃いと安っぽい絵になってしまいますし、色を重ねても汚くなってしまいます。薄い色を何回も重ねて自分の思う色を作り上げて行きましょう。尚、顔彩にも言える事ですが、必ず上澄みの部分を使うようにして下さい。底に濃い絵の具が沈んでいますが、これを使うと色が濁ってしまいます。

大抵は色んな色を混ぜて色を作るのですが、そればかりでは濁った絵になってしまいます。たまに1色で塗ってみるとか、顔彩を1色で塗って見ると、すっきりと鮮やかな画面になります。時折そういうカンフル剤が要るのです。一気に描き上げてしまうのではなく、時々立ち止まってみて、色の調子をよく見てみる事が大事です。

水干絵の具だけで仕上げるのならそう問題は無いのですが、その上に岩絵の具を重ね塗りする場合は、水干に方解末や水晶末等を若干混ぜると良いでしょう。何故かと言うと、水干絵の具のみで仕上げた上に岩絵の具を重ねると、表面が滑らかで引っ掛かりが無い為、岩絵の具の粒子が上手く留まらないのです。
岩絵の具は砂を塗りつけてる様なものなので、予め少しでもザラザラさせておくとそれに引っ掛かって上手く乗ってくれます。又、何回も同じ箇所を濡れた筆で擦っていると先に塗った絵の具が剥げてしまうので、それを防ぐ意味もあります。

色の組み立て

少し色の組み立て方について書いてみましょう。
日本画は水干や岩絵の具の場合、100回近く色を重ねて完成させます。しかし、単に色を重ねるだけでは思う色は出来て来ません。効果として上に来る色の下に、全く別の色を塗っておいたりします。例えば全体的な事で言えば、色を塗る一番最初に、画面全体に薄く黄土色や緑色などを塗っておくとか。はっきりと完成した絵にその色が見えてる訳ではありませんが、そこはかとなく温かみが出たり、ニュアンスが加味されるのです。

また、女性の肖像(特に舞妓さん)を描くにはどの色をどういう風に予め塗らなければならないか、などが厳密に決まっています。舞妓さんで説明すると、真っ先に朱に少し赤を加え(芸妓さんだと朱のみ)、毛の生え際、影になる部分、頬、指先などに朱赤を指していきます。額にほんの少し髪の毛が垂れていますが、そういう所にも朱赤で影をつけます。影と言っても決して茶色では入れません。何故かと言うと、可愛らしさが無くなってしまうからです。これは浮世絵からの伝統です。

その上におしろい代わりに胡粉を塗ります。舞妓さんの時は必ず自分で作った胡粉を用いて下さい。チューブだとただの白絵の具でしかありません。練って作った胡粉は白く浮き出る性質があるのです。もし上に何か他の絵の具をぬっても、ぼうっと浮き上がります。表面の滑らかさもチューブの比ではありません。

その代り、水の形が輪染みの様に残り易いので、必ず胡粉を塗った所全体を塗らしてから色を重ねて下さい。特に顔の場合は水で濡らさないと、かさかさな感じになってしまいます。デリケートな素材なので、丁寧に扱ってください。
 
胡粉に限らず、下に塗った絵の具は粒子の間から顔を覗かせます。岩絵の具の様な粒子の粗い絵の具なら尚更です。そういう所も計算して逆算する様に、絵の具を選んで塗っていく事が複雑な色を効果的に見せる要因です。

岩絵の具について

岩絵の具は現在では合成の物が沢山出来ていますが、元々は天然鉱石や珊瑚などを砕いて絵の具としたものです。粒子の大きさによって番号が変わり、粗い物(小さな番号)〜粉状の物(大きな番号)まで色々あります。天然材料の絵の具は同じ色・番手の物でもその時々で色が微妙に違って来ます。なので気に入った色を見つけた時は纏めて買っておく事をお勧めします。プロの方は大抵大瓶ごと買っておられます。

合成絵の具は胡粉に着色して作ってありますので、非常に粒子が細かいのと、色が安っぽいので使い勝手が悪いですが、安い絵の具でも色の吟味や作り方によって、かなり綺麗な色に仕上げる事は可能です。一度実験したのですが、私の作品で「メキシコの牛乳売り」と言うのがありますが、これを描くに当たってわざと安い絵の具でどれだけの色が出せるか試してみました。画像では判りにくいですが、とても深く鮮やかな色に仕上がり評判が良かったです。その代わり思う様な色が出るまで大変でしたが・・。

昔の日本画はあっさりと塗ってあって画面が平らと言うか、現在の日本画の様にデコボコ軽石の様にはなっていませんね。このデコボコは盛り上げと言う白い粉を下地に用いています。岩絵の具だけでこれだけの厚みを出そうと思うとそれだけで何十万と言うお金が掛かってしまいますので、安く効率的に描く為に用いられます。個人的には何故こんな物まで使って描くのか、あんまり意味が無い様に思われますが・・。絵の具が綺麗に乗り難いし、画面の質感が汚らしく見えるからです。

岩絵の具の使い方

岩絵の具は先に述べた水(以下膠と表記)に溶いて使います。
粒子の大きさは色々有りますが、要は砂粒なので紙や絹に取れない様に接着させているのです。しかし接着性は指で触っても剥がれたりしないものの、塗り重ねた時やぼかす時に、先に塗った絵の具は簡単に剥がれてしまいます。特に水に弱いです。ぼかす際に勢い余って、筆の軸に付いた水滴が画面に飛んで、染みになったりする事があるので気を付けて下さい。筆は決してこする様に塗るのでは無く、重ねる感覚で塗っていくと良いでしょう。膠を十分に含ませてから絵の具の粒子を含ませ、穂先に少し濃い目に取る様にすると自然に濃淡が着け易いです。これは顔彩などと同じですね。

ぼかす場合は筆の穂先の水気に気を付けて(まずは少な目にして具合が悪ければもう少し大目に水を含ませてみて下さい)、画面に触れるか触れないかていどに素早くぼかして下さい。時間が掛かると先に塗った膠が溶けて絵の具が動いてしまいます。全ての作業を素早く一気に塗る様に心がけて下さい。もし絵の具が剥げてしまってもよく乾いてから修正して下さい。慌てて塗れたまま直そうとしても余計に剥げて直す事は出来ません。岩絵の具は慣れないとかなり使い難い画材ですが、一度塗ったら必ず乾かす事と、勢いよく塗っていく事を心がけるとそれ程使い難くはないと思います。

作業をする際は必ず絵の具を塗る筆とぼかす為の筆を両手に持って塗って行きましょう。私はぼかし筆を筆洗で洗う時間が惜しくて(その分時間が掛かり、絵の具が乾いてしまうので)、ぼかし筆を2〜3本持って作業する事もしばしばあります。余り人には見せられない姿かも知れませんね。でもその位画面の濡れ具合には気を遣うのです。綺麗にぼかせる時間はごく僅かです。少しでも乾くと画面を引っ掻く様になってしまいますし、下手するとぼかすつもりがごっそりと先に塗った絵の具が取れてしまい、白い紙の部分が露出してしまいます。

ぼかし筆の水の含み具合にも神経を配りましょう。慣れてくると、どの位の水分量を含ませておけばいいのか解ってくると思います。が、気を付けなければならないのが、先に述べました塗ってる最中に持ってるぼかし筆です。夢中になっている間にせっかくいい具合にしておいた水分量が乾いてしまうからです。慌てて又筆洗に入れてる間に、塗った部分が乾いてしまわない様に・・。とにかく慣れと勘が勝負の大忙しの作業ですね。

同じ色でも番手によって色が変わってきますが、どの番手を使うかはその人の絵柄やモチーフによってかなり変わって来ると思いますが、私は7〜9番をよく使います。私にとって粒子の大きさが一番使い勝手がいいから、と言うのが一番の理由です。5番あたりのは沙漠やコンクリートなどのざらつき感が欲しい時によく使います。又13番以上の細かい絵の具は、それだけだと引っ掛かりが無くて色を重ねにくいので7番あたりの方解末や水晶末を少し混ぜるといいでしょう。勿論、滑らかな質感が欲しい時には混ぜなくていいですが。

岩絵の具は「砂」ですので、塗り重ねて色の粒を詰めて行く事は容易な事ではありません。深い味わい深い色にするには何十回と重ねていかないとそれなりの色にしかなりません。しかし、どういう訳か知りませんが、幾ら塗っても思う色にならずヘトヘトになりながらも尚塗っていると、突然冴えた深い色が現れる事があるのです。それは突然さっと目の前が開けた様に鮮やかに現れます。努力が報われ、感動する一瞬ですね。その色になれば、後は何回塗ってもひたすら綺麗な色に塗れます。私はこの瞬間が見たいが為に描いていると言っても過言ではありません。

何度塗っても思う様な色にならない、これは塗りが足りないのです。色々と試しながら諦めずに塗っていくと、必ず素晴らしい色が現れます。岩絵の具はそういう努力が必要な画材なのです。でも、他にはない魅力を持った画材なのです。色を作るのは画家の苦しみでもあり、描いている本人にしか味わえない楽しみでもあります。こう長々と書いているのは、どうも塗りが足りないなぁと思える絵が余りに多いんですね。構図や描き込みは素晴らしいのに、色が中途半端だと勿体無いなぁと残念なのです。時間の許す限り手を加えて欲しいものです。

それとは別に、高名な先生の描き方を見ていても、余りに自分が習って来た「常識」と違うのでハラハラする事もよくあります。粒子の細かい絵の具をどっぷりと紙に置く様にして描いていく方、雨で画面が濡れそぼっている様に、画面全体に水をスプレーして絵の具が少し流れる様に仕上げる方。色々いらっしゃいます。これは新しいその方なりの描き方なのかも知れません。「常識」と違っていると戸惑う事が多いですが、色々真似して試して見るのも手ですし、自分はこの素材を使ってどのように表現していけるのか、探っていくのが個性へと繋がって行くのだろうと思います。

その1 その3  HOW TO BBS(何かご質問等が有ればコチラへどうぞ!)